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用地交渉記録を不開示とする弁明書に対する反論書

  • nara-justice
  • 2018年7月30日
  • 読了時間: 7分

更新日:2021年6月22日

平成30年7月30日

奈良市長 仲川元庸 様

(審査庁 総務部総務課)

審査請求人 代理人 弁護士 今治 周平

反 論 書

 審査請求人が平成30年6月18日付で提起した行政文書部分開示決定通知書による部分開示決定処分に係る審査請求について,平成30年7月9日,審査庁から処分庁(奈良市長)の平成30年7月6日付弁明書の送付を受けたが,これに対して、次のとおり反論する。

1 奈良市情報公開条例第7条第2号について

そもそも奈良市情報公開条例(以下,「条例」という。)第7条2号は,個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの,又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを非開示にする旨定めている。

要は,特定の個人を識別することができるものか,特定の個人を識別することができなくとも,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものを原則非開示としているところである。しかし同号アは,その例外として,「法令等の規定により又は慣行として公にされ又は公にすることが予定されている情報」をあげている。

以上を前提に本件を見れば,そもそも,既に明らかとなっている情報に,地権者名、所在地、地番、地目、地積、単価、売買代金額が明記されていることから,用地買収の交渉相手が誰であるのかについては,特定の個人を識別することができる情報が公にされているところである。そうであれば,地権者との交渉記録に、当該用地買収に関連する情報で、地権者名、所在地、地番、地目、地積、単価、売買代金額以外の情報が記録されていたとしても、すでにそれらが如何なる個人に係る情報かは識別されているのであるから、特定の個人を識別することができたとしてももはや問題はない。

なお,弁明書では,漠然と「公開により個人の権利利益を害するおそれのある情報につき一定の場合を除き、不開示情報とする」とあるが,条例においてはあくまで,「特定の個人を識別することができなくとも,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」とある。つまり,特定の個人を識別することができない場合であっても,個人の権利利益を害するおそれがある場合は,一定の例外を除いて非開示にするというものであって,本件のように,そもそも特定の個人を識別することができる事情が,既に公になっている場合には,同文言には該当しないものである。

また,審査請求人が情報公開を求める地権者との交渉経過に関する記録は,奈良市の事業用地の取得に関するものであり,あくまで交渉時における市職員と地権者とのやりとりである。仮に,弁明書で「地権者のいわゆる生の言葉」と表現する情報の中に、用地取得と関係のない地権者個人の思想・信条に関する記載が万が一存在するのであれば(そもそも,そのような記載を当該行政文書に記載する必要性がないが),当該部分をマスキングした上で部分開示とすればよい。この点,弁明書において,「本件売買契約と直接に関係する部分もそうでない部分も混然としている」と主張されているが,売買契約の交渉経過は,原則として売買契約と関係するものであって,上記のように,一切関係しない記述が存在するのであれば,これは容易に区別することができるはずである[山下真1]

なお、実施機関は、条例7条2号アの趣旨に関連して、売買契約書に示される交渉の結果として合意に達した事項と、その前提となる交渉の内容等の情報は別個であり要保護性も異なると弁明する。しかし、実質的に考えれば、上述した通り、交渉の内容に当該用地買収に関連する情報で、地権者名、所在地、地番、地目、地積、単価、売買代金額以外の情報が記録されていたとしても、すでにそれらが如何なる個人に係る情報かは識別されているのであるから、特定の個人を識別することができたとしてももはや問題はない。一方、当該用地買収に関連する情報以外で、用地取得と関係のない地権者個人の思想・信条に関する記載が万が一存在するのであれば,当該部分をマスキングした上で部分開示とすればよい。従って、実施機関の弁明には意味がないと言わざるを得ない。

2 奈良市情報公開条例第7条第6号に該当しないこと

  条例第7条第6号は,行政機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく,支障[山下真2] の程度も,名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求されると解されている(条解行政情報関連三法350頁,弘文堂)。

  そもそも「公共用地交渉」とは,公共事業に必要な土地等の権利者に対し,土地調書・物件調書の説明及び確認を得ること,土地の評価の方法の説明,建物等の補償方針及び補償額の算定内容の説明,損失補償協議書の提示及び説明,補償金に関する税制の説明,補償契約書案の説明及び契約の承諾,並びに権利者の求めに応じて発注者[山下真3] から得た代替地の情報提供等を行うことであって,その性質上価格交渉は予定されていない(用地交渉ハンドブック,国土交通省土地・水資源局総務課公共用地室平成23年3月)。

  すなわち,用地交渉においては,行政が説明や情報提供を行うものであり,地権者の「真情」なるものを斟酌することを予定するものではない。用地交渉は,任意取得を原則としつつも,妥結に至らない場合は,土地収用法に基づく強制取得の手続に移行することが予定されている。つまり,地権者の「真情」なるものによって,市の対応は大きく変わらないはずである。

むしろ,用地買収は,価格交渉ではない以上,地権者が公にされたくない事情を考慮することなどできないのであって,それにも関わらず,本件行政文書の公開により用地買収の適切な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるなどというのであれば,それこそ,用地買収の協議の方法に問題があることを示すこととなってしまう。

以上の通りであるから,交渉経過が明らかになることによって,将来の同種の事務事業において、交渉相手との信頼関係が破壊され,用地交渉の事務に支障をきたすおそれというのは,抽象的確率的なものに過ぎず、法的保護に値する蓋然性は全く立証されていない。

  したがって,用地売買の交渉記録は,条例第7条第6号には該当しない。

3 公益上の理由による裁量的開示をすべきこと

  仮に,交渉記録が条例第7条各号に該当するとしても,条例第9条は,公益上の理由による裁量的開示を定めており,裁量権の逸脱濫用となる場合には,開示しなかったことが違法となる場合がある。

  同条例の趣旨は,不開示情報の規定により保護される利益と公益上の理由を比較衡量し,後者が優越する場合に裁量的開示を認めることにある。

  本件不開示情報に係る土地の売買について平成30年5月24日,住民訴訟が提起されている。同住民訴訟は,市長及び地権者が奈良市に対して損害賠償をすべきこと,及び違法な公金の支出の差止めを求めるものである。これは,審査請求人個人の見解に基づいて,私利を図ろうとするものではなく,奈良市の健全な財政運営を求めるものであり,これが公益目的であることは明らかである。このような市民の税金の使途が適切であるか否かという公益上の理由に比して,不開示情報が保護しようとする利益は,将来の同種の事務事業の円滑な遂行という極めて漠然としたものに過ず,しかも開示することによる支障の存在は法的保護に値する蓋然性のレベルまで立証されていない。従って、[山下真4] 公益目的が不開示情報により保護される利益に優越する。

  しかし,原処分においては,上記公益上の理由を考慮すべきであったのに,考慮せず,その判断過程に看過しがたい過誤又は欠落がるといわざるをえない。

  したがって,原処分には裁量権の逸脱濫用の違法があり,公益上の理由による裁量的開示をすべきである。

4 結論

  以上のように,本件開示請求の対象文書は,条例第7条には該当せず,仮に,該当する部分があったとしても部分開示をすべきであり,全部不開示としたことは違法である。また,仮に本件開示請求の対象文書が条例第7条に該当するとしても,条例第9条における公益上の理由による裁量的開示をすべきであり,公益上の理由を検討していない原処分は,裁量権の逸脱濫用の違法がある。

  したがって,審査請求の趣旨記載のとおり,本件行政文書の開示請求に対し,実施機関が一部を不開示とした決定を取り消し,本件行政文書の全部の開示を求める。


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